バリー・チャン / Barry Zhang · 03:07 「言い換えれば、 それらはフォルダーです」
過去 1 年で AI エージェントの足場 (scaffolding) は急速に標準化された。 MCP がエージェント接続のデファクトに、 Claude Code が一般リリース、 Claude Agent SDK で本番品質のエージェントが箱から出してすぐ使える。 ところが — エージェントは賢くなった一方で、 専門知識が足りない。 そこで Anthropic は 2025 年 10 月に Agent Skills を発表し、 「エージェント作りをやめて、 Skills を作り始めた」 と宣言する。
語るのは 2 人。 バリー・チャン (Barry Zhang) — Anthropic リサーチエンジニア、 業界で広く参照される 「Building Effective Agents」 (2024 年 12 月) の共同著者。 もう 1 人が マヘシュ・ムラグ (Mahesh Murag) — Anthropic Member of Technical Staff、 MCP のリードオーサー。 2 人とも、 各自プロトタイプを作りながら、 「コードは単なるユースケースではなく、 デジタル世界への普遍的なインターフェース」 という共通認識に到達した。
Skills の正体はシンプル — フォルダ 1 つ。 中に Markdown 形式の `skill.md` (説明 + 主要手順) と、 ツールとしてのスクリプトやファイルが入る。 Git でバージョン管理してもよし、 Google Drive に放り込んでもよし、 zip で人に渡してもよし。 「人間でもエージェントでも、 コンピューターさえあれば誰でも作れる」 ことを最大の設計目標にしている。 既に発表から 5 週間で数千の Skills が作られ、 Fortune 100 企業が社内ベストプラクティスを Claude に教える手段として採用し始めた。
設計の鍵は 「漸進的な開示」 (progressive disclosure)。 実行時、 モデルにはスキルの存在を示すメタデータだけが見える。 必要になった時点で `skill.md` の本体を読み、 さらに必要ならフォルダ内のファイルやスクリプトを呼び出す。 何百もの Skills を持っていてもコンテキストウィンドウを食い潰さない。 これが 「真の継続学習が来るまでの中継ぎ」 として Anthropic が提示する仕掛け。
個人的に面白かった点
「Skills はただのフォルダや」 という極端な単純化 (03:07)
手の込んだ DSL でも、 専用フォーマットでもない。 ただのフォルダ + Markdown + スクリプト。 「私たちは何十年もファイルをプリミティブとして使ってきた、 気に入ってる、 では今変える理由は?」 と切り返す。 結果として技術者やない人 (財務・採用・会計・法務) も自前で Skills を作り始めている、 という実例が示される。 「エージェントを動かすのは AI 研究者の仕事」 ではなく、 「現場の専門家が自分の知識をフォルダに詰めて渡す」 仕組みになりつつある、 ということ。
「マヘシュには確定申告を任せたくない」 という対比 (02:24)
Barry が冗談混じりに切り出す喩え。 IQ 300 の数学の天才 Mahesh と、 経験豊富な税務専門家 Barry — 税金は誰に頼むか? 答えは Barry。 今のエージェントは Mahesh みたいなもの — 知能はあるが、 ドメインの専門知識が足りない。 第一原則だけで 2025 年の税法を再構築させたくない。 Skills は 「専門家の手続き的知識」 を渡すための仕組み、 という主旨。 喩えがそのままチームの内輪ノリになっていて、 講演トーンを軽くする工夫としてもうまい。
「MCP が接続を提供、 Skills が専門知識を提供」 (08:24)
MCP のリードオーサーである Mahesh 自身が、 MCP と Skills の住み分けを明示する場面。 MCP は外部のツール・データへの接続規格、 Skills はその上に乗る専門知識のパッケージ。 複数の MCP ツールを束ねて 1 つのワークフローに仕立てる Skills が増えてきた、 と。 さらに 「モデル = プロセッサ、 エージェントランタイム = OS、 Skills = アプリ」 という業界アナロジーで締めくくる (12:32)。 「数社がプロセッサと OS を作るが、 真の価値は何百万のアプリが作る」 — Skills レイヤーを誰でも作れる開放層として位置づける主張。
動画の構成
- (00:00) 自己紹介、 前回からの 1 年で何が変わったか (MCP / Claude Code / Agent SDK)
- (01:14) 「必要なのはコードだけ」 という認識 — Claude Code は実は汎用エージェント
- (02:08) ドメイン専門知識という壁 — 賢いだけでは不足
- (02:34) Mahesh vs Barry の確定申告ジョーク
- (03:00) Skills とは何か — フォルダ 1 つ、 Markdown と スクリプトの集合
- (03:30) なぜファイルというプリミティブを選んだか — 共有と移植のしやすさ
- (04:00) スクリプトをツールとして埋め込む例 — 自己文書化、 必要になるまでロードしない
- (04:21) Progressive disclosure — メタデータ → skill.md → フォルダ本体の 3 段階
- (05:08) 5 週間でエコシステムが急成長 — 3 種類の Skills
- (05:50) Foundation Skills — Office ドキュメント生成、 Cadence の科学研究
- (06:38) Third-party Skills — BrowserBase の Stagehand、 Notion ワークスペース連携
- (07:25) 企業内 Skills — Fortune 100 の社内ベストプラクティス、 開発生産性チーム
- (08:24) MCP との相補関係 — 接続 + 専門知識
- (09:05) 一般エージェントの新アーキテクチャ — エージェントループ + ランタイム + MCP + Skills
- (10:33) 今後の課題 — テスト/評価、 バージョン管理、 依存関係管理
- (12:02) Skills の真価は共有と配布 — 組織知識ベースの集合進化ビジョン
- (13:23) 継続学習への具体的ステップ — Claude 自身が Skills を作る
- (14:32) コンピュータの歴史との対比 — モデル / ランタイム / Skills = プロセッサ / OS / アプリ
- (15:38) 結論 — エージェントを作るのをやめて、 Skills を作り始めよう
出典
Don't Build Agents, Build Skills Instead — Barry Zhang & Mahesh Murag, Anthropic (AI Engineer)
講演者プロフィール: バリー・チャン / Barry Zhang · マヘシュ・ムラグ / Mahesh Murag